11月新橋演舞場・花形歌舞伎 夜の部

kenboutei2009-11-01

初日の夜の部を観劇。
三人吉三松緑の和尚、菊之助のお嬢、愛之助のお坊。昼の部の『三五大切』もそうだが、若手だけで南北や黙阿弥の通しを出せるということに、まず驚いた。意欲的な冒険と捉えるか、無謀な試みと捉えるかは微妙なところだが、とりあえず、無難な初日ではあった。
菊之助のお嬢は、平成9年5月の三之助での「大川端」を見逃して以来、いつか観たいと思っていたものだが、何だかサラサラした感じ。この作品の根底にある淫糜な世界に対して、菊之助の今の芸質は合っていないということなのかもしれない。(襲名の頃の弁天小僧などを観ると、そうではなかったような気もするのだが。)まあ、そういう一種の清潔感みたいなものは、松緑愛之助にも共通する部分であり、基本的にこの三人は『三人吉三』の世界観からは、遠く離れている。どれかこの三役の一役に、亀治郎が入っていれば、また違った印象になるのだろうが。
「月も朧に」の台詞も、悪くはないが、陶酔感を味わうところまでには至らない。
松緑の和尚は、三人の兄貴分に見えたことは立派。丁寧に役を演じていた点も好感が持てるが、ニンかというと、そうは思えなかった。
愛之助のお坊はかなり意外感のある配役。仁左衛門もやっているという点では、あり得るのかもしれないが、自分の中では、過去の女形での印象が強かったせいか、愛之助の役者としての位置付けが今ひとつわからないでいる。ついでに言うと今日の愛之助、「大川端」の最後の方でプロンプがついていた。ベテランとは違うのだから、初役とはいえ(いや、初役だからこそ)、台詞はしっかり叩きこんでおくべき。(まして、黙阿弥の有名な一幕ではないか。)
歌六土左衛門伝吉が、初役のようだが本格。過去の罪も踏まえた性根がしっかりしていて、とても良かった。凄みがあるところも良い。自分が観たこの役の中では、羽左衛門に次ぐ出来だと思った。
亀寿の源次坊が、生き生きとしていて印象に残る。(この役が印象に残るのも珍しい。)
松也の十三郎、梅枝のおとせ。
『鬼揃紅葉狩』亀治郎の鬼女、松緑の維茂、菊之助の八百媛。『三人吉三』より面白かった。亀治郎は他の鬼女を従え、まるでベテランのような貫禄があった。小書の演出もいかにも歌舞伎らしい派手さで楽しい。少なくとも、前に玉三郎が高尚趣味で演出したものより、ずっと良かった。
松緑の維茂に品があり、菊之助は普通。
「鬼揃」の鬼女たちは、吉弥、松也、梅枝、巳之助、右近、隼人。鬼の隈取になると、誰が誰やらわかりません。(特に吉弥は、本当に鬼女で出ていたのかと思うほど、識別しにくかった。)右近の女形での踊りがしなやかで、今後が楽しみ。
それにしても、隼人にしろ右近にしろ(碓氷三郎役の種太郎も)、子供だと思っていたのが、みんな立派に一役勤めており、時の流れの早さを感じてしまった。(歌舞伎観劇年齢でいけば、まだまだ若いと思っていたのだが。)