『スター・トレック』

kenboutei2009-06-10

いまだファクトファイルと格闘中のこの時期に、スター・トレックの新作が公開。観ないわけにはいかない。丸の内ルーブル
今度の新作は、オリジナル(TOS)のビギニング。配役総入れ替えで、新しくて若い(ここが肝要)、カーク、スポック、マッコイが登場する。
事前に知っていたのはその程度で、ほとんど白紙状態で観る。そのせいかもしれないが、話の展開がとても面白く、次にどうなるんだと、久しぶりにSF映画でワクワク感を覚えながら画面に夢中になっていた。そう、中学生の頃の、あの『宇宙大作戦』に夢中になっていた自分が、戻っていたのである。そのこと自体に、何だかジーンとなってしまった。
スター・トレックの過去の映画は、完全に特定のファン向けのものとなってしまい、トレッキー以外への求心力は全くなかったのだが、今回の映画は、むしろ一般の観客に門戸を開き、しかもうるさ型のトレッキー(要するに「おたく」だ)も納得させる、奇跡のような出来栄えである。
パイク船長の登場や、コバヤシマルのエピソードなど、トレッキーの気持ちをくすぐるトリビアも重ねながら、カーク、スポック、マッコイが、少しずつキャラ立ちしていく。ウフーラ、スールー(加藤)、チェコフ、スコット(チャーリー)らの、特徴ある個性を際立たせながら、ほぼ均等の時間配分で活躍させている(スコッティの登場が遅くて、ちょっと心配させるが)のも、各キャラのコアなファンをも意識した、心憎いサービスであった。(クリスティーヌ・チャペルが、会話の中だけしか出なかったのが残念。)
ウフーラとカーク、スポックとの意外な関係や、マッコイがちょっとマッチョすぎるとか、或いはエンタープライズが地上で建設されているとか、過去のシリーズに拘ると注文をつけたくなるところも多々あるが、逆にそれを知っていることで楽しめた部分に比べると、小さなことである。
エンタープライズのデザインそのものも、少し女性的過ぎるのだが、土星の星雲から浮かび上がってきた時は、実に美しく格好良く、最初の映画(TMP)のドックからの出航シーンと並ぶ名シーンとなった。
全体的に過去の作品へのリスペクトを感じさせる作りであったのも好感が持てた。異星人とのファースト・コンタクトを中心に持って来たことと、より一般の観客を意識したという意味では、スピード展開やアクションなどは全く違うけれど、ロバート・ワイズ監督の第一作のテイストに近いものを感じた。(謎の宇宙船が強大な力で襲って来るというオープニングは、TMPでの、ヴィジャーによるクリンゴン船襲撃を彷彿とさせるし、ワープ中に船長の気づかない異変を察知する展開や、カークが他の者から船長の座を奪うというところも同じだ。)
いとも簡単に時空を越えたり惑星を破壊してしまうのも、これまでのスター・トレック映画にはよく見られたことで、劇中でスポックが当然視していたのがおかしかったのだが、まあこの辺の許容度で、一般客の評価は分かれるかもしれない。
カークが崖登り好きなのは、幼少の頃の経験からだったのか。
アマンダにウィノナ・ライダー。意外な配役で驚いたが、どうせ出演するなら、地球人よりバルカン人の方が似合っていたように思う。
ウフーラ役の女性は、パンフを見ると『ターミナル』に出ていたとあり、あのトレッキーの入国審査官だったことを思い出し、納得。
ロミュラン人の格好は、ただのチンピラにしか見えなかった。
音楽の方は、全体に硬い感じがして、耳に馴染まなかった。(もちろん、オリジナルのファンファーレが流れた時はうれしいが。)
ラストに挿入された、「space... the final frontier.」のナレーションが、いつものウィリアム・シャトナーとは違う、それでいて耳慣れた声で聞こえて来た時には、万感胸に込み上げてくるものがあった。ここでぐっとこないトレッキーはいないだろう。
オリジナルのビギニングと思っていたものが、ある時点から完全に違う時間軸の物語にしてしまったのが、今度の映画化の最大の成果であり、賛否両論はあるだろうが、これにより、新たなシリーズ化へ踏み込むことができたことは、ファンにとってはとても嬉しいことである。(こうして、「スター・トレックペリー・ローダン化」は、ますます進行していくのだ。)
あの手この手で過去のソフトを切り売りしていたスタトレ・ビジネスにとっても、この成功は大きいだろうな。(DVDやらフィギュアやら、この先が思いやられる。「ファクトファイル」がこの映画の前に完結してくれてよかった・・・。)
live long and prosperとは、シリーズそのものに向けた言葉だったのかもしれない。
既に続編は決まったそうで、その行く末は知る由もないが、今はただ、スポックのように、good luck!と言っておこう。
・・・結局トレッキー向けの映画だったのかな?(まあそれでいいのだけれど)