紀尾井ホール・豊後節

kenboutei2009-01-28

紀尾井ホール『江戸音楽の巨匠たち』シリーズ。今年度の初回は、宮古路豊後掾豊後節)がテーマ。
対談は竹内道敬と渡辺保の黄金コンビ(?)。
竹内先生によると、宮古路豊後掾についてはほとんど記録が残っておらず、生没年も不明だという。(対談中、度々「これがよくわからないんですよ」と呟くのが、何だか面白かった。)
83歳で死んだという説と38歳で死んだという説があり、竹内先生は、音楽に革命を起こすのは常に若者であったということから、38歳説を主張する(豊後節もまた革命的な音曲であった)。また、心中ものを禁止した吉宗の改革の中で、堂々と心中狂言を脚色・作曲できたのは、豊後掾のパトロンとして、吉宗に対立していた尾張の宗春がいたからだという。
この辺りの時代背景、特に吉宗について、竹内先生は語りたくてたまらなかったらしく、渡辺先生が他の話題に誘導しようとしても、なかなか止らず、結局、一中節を含めて、肝心の音楽の話にはあまり踏み込めないで終わってしまった。(それでも時間オーバーだったような気がする。)
ただ、その中でも、竹内先生が「宮古路豊後掾は、上方の義太夫とは異なる「江戸の浄瑠璃」を目指していたのだ」と強く言っていたのが印象に残った。
この二人の対談は、回を重ねるにつれ漫談のようになってきて面白い。今日もこんな一幕があった。
 竹内「例えば、最近の若者のバンドで、ヒカルゲンジっていたでしょう?」 
 渡辺「あー、グループサウンズの?」
 竹内「そう、そう!」
 ・・・今年度はこの一回だけなのが残念。
休憩後の第二部、最初は一中節『二重帯名護屋結(上)』。浄瑠璃・菅野序恵美、三味線・菅野序枝。
竹内・渡辺対談では、米相場で失敗した男による「経済心中」と整理されていたが、初演の豊後節の戯曲(『睦月連理𢢫』)が曲名を変えて一中節に残ったものだという。静かで地味な一中節だが、菅野序枝の三味線の繊細な音色が良かった。
次に常磐津『積恋雪関扉(上)』。一巴太夫に、三味線が英寿という、超贅沢な布陣。特に英寿は、最近は歌舞伎には出ていないので、自分が意識して聴くのは多分今日が初めてのことである。
時々左半身をゆらゆらと前後に動かし、目も閉じているのか開いているのかわからないので、居眠りでもしているかのような感じでいながら、実に端正で品のある三味線の音を聞かせてくれた。合間に発せられる「はっ」という声は、義太夫三味線のような裂帛の気合とはまた別の、静かではあるが厳しく緻密な発声。英寿の三味線を聴けただけで、今日は来たかいがあったというもの。
それに合わせて、一巴太夫、和佐太夫の掛け合いの浄瑠璃がまた素敵であった。一巴太夫が宗貞と関兵衛、和佐太夫が小町姫を主に受け持つ。
歌舞伎では役者が言う台詞部分も太夫が語るのが面白かった。全体的に歌舞伎の時よりもテンポがゆったりしており、この狂言でよく言われる天明歌舞伎のおおらかさが、素浄瑠璃によって一層、実感することができた。
これで四回目の「江戸音楽」だが、今回が一番面白かった。(その中でも常磐津が良かった。)