ボストン美術館浮世絵名品展

kenboutei2008-11-05

三連休の最終日、両国の江戸東京博物館で開催中の、「ボストン美術館浮世絵名品展」へ。
午前10時30分に入り、気がつくと午後2時30分。たっぷり4時間。さすがに疲れた。
最初に展示されていた、懐月堂度辰の「鷹の羽模様の衣裳の遊女」に、早くも釘付けになる。

懐月堂については、前に同じ江戸東京博でやっていた、ボストン美術館所蔵の肉筆浮世絵展を観た時に、かなり興味を持ったのだが、今日はその浮世絵を、じっくり堪能でき、感慨無量。勢いのある、力感たっぷりの奔放な描線、肉感的な顔と身体、仰け反るほど胸を突き出した、エロティックなポーズ。一目でそれが懐月堂派とわかるデザインは、次に展示されていた、鳥居清倍の「二代目藤村半太夫の大磯の虎」にも引き継がれている。

清倍(や、鳥居清信)の絵では、着物の黒色に膠を用いて光沢を出している上に、空摺りで文様を描いており、ガラス展示でそのまま観ていては、光の反射で見えないので、下から覗き込むような感じで、その文様を楽しんだ。

空摺りで圧巻なのは、春信の作品で、坐鋪八景の「ぬり桶の暮雪」では、白い雪(に見立てた綿)を表現するのに、空摺りを巧みに用いており、また、「女三の宮と猫」では、猫をつないでいる紐にまで、わざわざ空摺りを入れている。ボストン美術館所蔵の凄いところは、色がほとんど退色していないだけでなく、こうした空摺りによる紙の凹凸までが、しっかり残っているところで、こういう展示は、めったにお目にかかれるものではないと思う。

春信では、他にこたつから出た女性の足をくすぐっている「水仙花」が、何ともユーモラスで良かった。

気に入ったものをいちいち挙げていてはキリがないが、勝川春章や写楽、豊国らの役者絵も堪能、しばし江戸時代にタイムスリップし、当時の歌舞伎に思いを馳せた。
中でも、春章の描く「対面」の絵は、九代目羽左衛門の工藤が、撥を持って神楽太鼓を叩こうとしており、どんな曽我狂言だったのか、興味は尽きない。

他に面白かったのは、広重の下絵。和紙に軽いタッチで筆を走らせているだけで、まだ未完成の図だが、広重のデッサンの確かさなどがよくわかる。一部紙を貼って書き直していたりするのもあった。こういうものまでコレクションするのが、さすがに欧米らしい。
前後するが、奥村政信の「揚屋十二段」が、何とも艶っぽくて良かった。

二代清倍の「鉢木」の絵の解説では、中村新五郎の源左衛門が手にしている鉈を、扇子と間違えていたようだ。

それにしても、ボストン美術館の所蔵は凄い。一体日本から、どれだけ持ち出したのだろう。
今回の展示も面白いが、美術館のホームページも充実しており、そこにはまだ自分にとって未知の役者絵が驚く程掲載されている。(もちろん、役者絵に限ったことではないが。)
例えば、春章描く、初代富十郎の、こんな構図の絵を見せられると、驚きだけでなく、不思議な戸惑いさえ感じてしまう。

両国の展示が、ボストン美術館の浮世絵のほんのわずかでしかないことが、このサイトを覗くだけでわかる。特に、スポルディング・コレクションの方は、目眩すら感じる量である。とても4時間、いや、1日かけても観尽くすことはできないだろう。(まあ、空刷りの質感までは、パソコン画面ではわかりようがないが。)
ネットに耽る夜が、また長くなりそうだ。