六月国立・鑑賞教室『神霊矢口渡』

kenboutei2008-06-01

初日、午後2時半の部。入りはあまりよくない。河竹登志夫先生を見かける。
東京で初めて演じるという孝太郎のお舟より、今回が全くの初役である市蔵の頓兵衛が観たかった。
期待通り、市蔵は非常に良かった。下手草むらから、のっそりと現れた時の、その風貌の古怪さと、大きな威容は、既に頓兵衛その人で、とても初役とは思えない。何といっても顔が良い。弟亀蔵の持つ怪異性や力強さとはまた別の、古めかしくおおどかな、歌舞伎らしい味のある顔である。
最後の蜘蛛手蛸足の引っ込みも、とても面白く見応えがあった。全体に、口を大きく開けすぎていたきらいはあったが。
孝太郎のお舟は、前半は、いつもながらキンキン、ドタドタ感が強かったが、手負いになってからの立ち廻りは良かった。櫂を持っての見得なども、少し形が流れたが、割合決まっていた。
亀寿は、新田義峰より、ラストの義興の霊の方が良かった。口跡良く、低音がしっかり。台詞廻しだけなら、先月の海老蔵知盛より立派。先月の幡随長兵衛での子分も良かったし、もう中途半端に赤姫などすることなく、立役一本に絞るべきだろう。兄亀三郎と一緒に、もっと歌舞伎での活躍の場を与えて欲しい。(しかし、義興の霊を実際に出す演出は、あまり記憶にないなあ。)
宗之助のうてなが神妙。この人のお舟を観てみたい。(何たって紀伊国屋なのだから。)
その前につく「歌舞伎のみかた」は、亀寿が解説。作品紹介で、平賀源内(橘三郎)を登場させ、亀寿自身は途中で引っ込んでしまうのが、何だか興醒め。
鑑賞教室ということで、竹本の字幕が上手・下手につくが、上手はともかく、下手は花道の背景にかぶるのが難。本公演では絶対にやってほしくない。