『細雪』

kenboutei2008-02-29

先日、市川崑の追悼番組として放映された番組を録画鑑賞。
学生の頃に一度観ていた気になっていたのだが、製作されたのは受験浪人の頃の83年で、今回が初鑑賞であった。
谷崎の原作の方は、会社に入ってから、中公文庫の分厚い一冊を、一気に読んだ。その後、自分が谷崎に夢中になるきっかけとなった作品でもある。
そういうわけで、『細雪』については、どういう映画になっているか、楽しみにしていたのだが、原作の雰囲気を損ねることなく、かつ市川崑独特の映像美で、演出も円熟しており、高水準の文芸映画となっていた。何となく、トリュフォーの映画を観ているよう。
おそらく、学生の頃に観ていたなら、あまり起伏のない筋立てに物足りなさを感じていただろうが、今の年齢で観ると、一つ一つの仕種や風景の美しさ、会話の機微などが、非常に面白かった。(小説の方もそうだが。)
ストーリーは、あれだけの長編小説だから(もう10年以上前に読んだだけなので、あまり覚えていないが)、だいぶはしょったり、変更もしているのだろうが、三女の雪子のお見合いと四女の妙子の奔放な交際を中心にした進行に、原作の印象との違和感はなかった。(原作では妙子は確か妊娠したはずなのだが、その直接的な描写はなかった。家を出てアパート暮らしの妙子の着物姿が、少しふっくらしているところで、暗示していたのかも。)
タイトルロールの後、佐久間良子の幸子が首筋の白粉を塗るのを、「こいさん」と呼んで妙子に手伝ってもらい、さらに「B足らん」と言うのが、原作の冒頭部分と同じで、自分も強く記憶に残っていたところだったので、このシーンだけで嬉しくなった。
この映画を観る前に、『どら平太』製作時に作られた市川崑のドキュメント番組も観たのだが、その中で、長女鶴子役の岸恵子が、「本当は山本富士子がやる役で、自分はミスキャスト」と言っていたが、確かに、鶴子は山本富士子で是非観たかったと思う。しかし、関西弁はともかく、岸恵子のこの映画での魅力は捨て難く、特に、帯を締めるとお腹が鳴るといって、あれこれ帯を取り替える時に着ている、鮮やかな緑色の着物姿が、何とも言えず美しい。四人の女優の中で、最も美しい着物姿であった。
吉永小百合の雪子は、白い着物姿でぼーっと立っているところが良い。内に秘めた意思の強さをうまく表現しており、原作のイメージにも近いと思った。
佐久間良子の幸子と古手川祐子の妙子は、ちょっと自分のイメージとは遠かった。
雪子が最終的に婚約する華族役に、江本孟紀が出演していたのも少し驚いた。エモやんは、ちょうど話題になっていた頃か。さすがに台詞は一言も言わせてもらえてなかったが。おそらく東宝の営業政策によるものであろうが、こういう話題性あるキャスティングが、後々、時代設定の統一性を著しく損ねるものになるとは、その当時は気がつかなかったのであろうか。
時代設定といえば、この映画は昭和10年代の話なのだが、あまりその雰囲気を感じず、時として現代劇のような錯覚すら覚えたのは、市川崑監督の映像の特色のような気もする。
ついこの前、歌舞伎チャンネルの「芸に生きる」で観た桂小米朝が妙子につきまとう啓坊役を演じていた。
三宅邦子が四姉妹の叔母役で出演していたのが嬉しかった。

細雪 [DVD]

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細雪 (中公文庫)

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