紀尾井ホール・河東節

紀尾井ホールでの、「江戸音楽の巨匠たち」シリーズ、第三回目は、「河東節」。
一回目と同じく、対談は、竹内道敬と渡辺保。早くに完売されていたはずだが、実際には空席もチラホラ。
冒頭、『海老』という曲で始まる。

そもそも海老は親に似て、幼少よりも髭長く、目さえめでたき次第なり。

ほんの短い詞章で、あっという間に終わってしまったが、浄瑠璃の山彦音枝子の、男性的な太い声が良かった。
その後、竹内・渡辺対談の始まり。前回同様、渡辺氏が竹内氏の蘊蓄を引き出すような形で、面白い話が聞けた。

  • それまでの上方浄瑠璃は、基本的には一人で語るのが基本であったが、河東節は、集団演奏に大きな特色がある。
  • 上方は、いわゆる乙の声が主流であったが、地方出身者の集まりである江戸はそれでは物足りず、高音を用いた甲の声が好まれ、それが河東節に反映している。
  • 三味線音楽(というか、日本の音曲)は、もともと「和音」という概念がない。ドレミファの西洋音楽とは根本的に異なる。それなのに、こういう曲に対しても、「ピッチが合っていない」とか、「ハーモニーが悪い」などと批評する人がいるが、おかしなことだ。
  • 従って河東節は、集団で、和音がなく、それぞれがバラバラで謡っているように思えるが、そこに面白さがある。これが、日本の音楽の面白さだ。
  • 河東節の紋の形は、「口一口」と言う。
  • 初世河東の曲調は、四世でより派手になる。四世が今の「助六」を完成。三味線の「ハオー」という派手な掛け声は、初世の時にはまだなかった。(この掛け声は、四世の時ではなく、明治期の六世(?)の頃に始めたという説もある、とか。)

この他、もはや三回目となる、「江戸浄瑠璃50年周期説」と、「一流派=一演歌歌手説」という竹内先生の持論も拝聴。
対談に続き、『松の内』、そして『助六由縁江戸桜』。
助六』は、河東節十寸見会の旦那衆が出演。呉服屋、医者、建設会社の社長、大学教授など、竹内先生がいちいち出演者の職業を紹介してくれたのが面白かった。その中に、小泉元総理大臣(いつの間にか「前」総理ではなくなっていた。)の実弟もいたのには驚いた。
もっと驚いたのは、この『助六』の演奏前に、團十郎が駆け付けたことである。(奥さんもご一緒) 竹内先生に紹介され、一言挨拶してくれた。正月に歌舞伎座で『助六』が出るので、その宣伝も兼ねていたのかもしれない。(或いは、十寸見会への仁義かな。)
自分の席のすぐ近くで、團十郎は、来月の舞台で自ら所作することになるその曲を、リズムを取りながら聴いていた。
今年度の三回分はこれで終了。今回が一番面白かった。(来年度の三回は、平成21年の1月からスタートするそうだ。)
ロビーには、主に国貞描く助六の舞台の浮世絵が多数展示されていたが、竹内先生のコレクションとのこと。(国貞ではないが、九代目團十郎の、三枚綴一人立の助六大首絵は、自分の持っているのと同じ構図であった。)
帰りに、四谷駅前で軽く一杯。