一中節

紀尾井小ホールで、『江戸音楽の巨匠たち〜その人生と名曲』第二弾。
今回は「一中節」。竹内道敬氏との対談相手は、徳丸吉彦氏。徳丸氏は、お茶の水博士のような髪形に、和田勉の風貌。一度見たらなかなか忘れ難い印象。会場は、満員の前回とは異なり、空席も目立ったが、それでも9割近くは埋まっていただろうか。
二部構成で、一部は初世都一中、二部は五世都一中にスポットを当て、それぞれに対談と演奏がつく。
音楽学の徳丸氏との対談なので、専門的な話もあったが、なかなか面白かった。前回、竹内氏が三味線のルーツについて話していた際に触れていた、箱三味線(ゴッタン)を、徳丸氏が持ってきており、休憩時間に実際に触れることもできた。
一部では、対談の途中で当代の都一中も出てきて、徳丸氏の解説に従って演奏法を実演してくれた。当代の風貌は、商店街のおじさん風で、あまり邦楽奏者に見えなかったが、親しみは持てた。
竹内氏と徳丸氏の解説で印象に残ったのは、以下の通り。

  • 一中節は、親戚でも2曲が限度と言われる程、地味。(川柳を紹介してくれたが忘れた) それを五世一中が、派手な曲廻しで再興。だから、初世と五世では、曲の雰囲気が全然違う。
  • 初世一中は、斬髪頭に十徳という格好が評判になった。ある音楽が流行る時、それはその音楽だけでなく、それを演奏する者の風俗なども大きく影響する。考えてみると、ビートルズなどもそうである。
  • 五世一中の頃の三味線は、鳥羽屋里長。この頃の三味線は、この鳥羽屋一派が専門集団として、一中節だけでなく、様々な流派の音楽の三味線を演奏していたらしい。

一部の演奏は、初世一中作の『お夏笠物狂』。浄瑠璃に管野序恵美、菅野序芙美(何と呼ぶんだろう、じょえみ? じょふみ?)。三味線、菅野序枝、菅野序春(じょえ? じょはる?)。いずれも女性の奏者。
なるほど、極めて地味というか、聴く者にも忍耐を強いられる曲であった。地の底から這い出るような低音が、催眠周波として襲ってくるよう。特に女性の声での低音というのは、極めて聞き取りにくく、固唾を飲んで拝聴するような感じであった。ただ、全体的にはとても上品な音楽で、お座敷などでじっくり聴くにはいい音楽だなあと思った次第。(もっとも一中節そのものは、劇場音楽とのことだが。)
浄瑠璃の二人が、床本をめくる度に、いちいち手にしていた扇子を置くのが、面白かった。
二部は五世の『傾城浅間嶽』。浄瑠璃に都乙中、都了中。三味線は都一中、上調子都楽中。
これは指摘の通り、初世の曲とは随分違って、艶やかな調子で飽きない。清元に近い印象。それでも初世の曲と同じ上品さは感じられ、一中節の魅力の一端を垣間見た思い。若い了中の声が美しかった。
一中節とゴッタンに興味を持って、会場を後にした。