10月歌舞伎座・昼の部

kenboutei2007-10-08

『赤い陣羽織』木下順二の民話だが、元はスペインの話らしい。いわゆる、コキュの物語。孝太郎がなかなか奮闘。上村吉弥の奥方もうまい。それにしても、こういう舞台を見せられると、つい歌舞伎とは何なのだろうと思ってしまう。
『封印切』『新口村』藤十郎の忠兵衛。『封印切』、いつものこってり感はあまりなく、何だか薄味の忠兵衛だった。三津五郎初役の八右衛門は、頑張ってはいたが、面白味がない。言葉の問題ではなく、相手との間合いの問題。藤十郎との息が合っていないのである。秀太郎のおえんは、さすがにうまい。時蔵の梅川は神妙。
『新口村』、浅葱幕が落ち、筵から顔を現した時の、藤十郎時蔵の美しさ。ここで勝負あり。『封印切』の不調を挽回。藤十郎時蔵の手を自らの懐に入れ、時蔵藤十郎の手を袖に持ってくるところなど、実に色気と風情があって良かった。竹三郎の女房も味わい深い。ただ、期待していた我當の孫右衛門が、不発。言葉は明瞭だが、テンポが悪く、妙に説明っぽくなる。「うれしいが、腹がたちます。」とか、「今じゃない、今じゃない、今のことではないわいやい」、「そーじゃ、そーじゃ、その道じゃ」などの名台詞が、ことごとく違和感があった。残念。
『羽衣』かつて明治座で初めて福助を観た時の演目がこの『羽衣』だった。(その時、天女役の福助の第一声が実に美しく聞こえたものだった。) 今回は、玉三郎の天女。玉三郎は、最初、薄桃色の振り袖姿で花道から登場。髪を一本に束ね後ろに下げ、能を意識した足取り。明治座福助がどんな衣装だったかはもう記憶にないが、今日の玉三郎とはかなり違う印象だった。舞台正面に来てからの踊りは、お見事、の一言に尽きる。ふわふわと、滑らかに、軽やかに舞い踊る姿は、まさにこの世の者ではなく、天上から舞い降りてきた天女そのものであった。先日観た『鷺娘』より、さらに良かった。ただ、後半の羽衣を着てからの踊りは、それほど面白くはなかった。
最後は、花道を静かに引き返す。明治座福助は、ここで宙乗りをしたのだが、今日は、舞台に残った伯竜の愛之助の方が、セリで下がっていくという演出。(いささか疑問の残る演出だ。)
それはともかく、玉三郎の美しさは充分堪能でき、昼の部では一番良かったと思う。