『大殺陣 雄呂血』

kenboutei2007-06-27

先週NHK衛星で放映された、市川雷蔵主演の『大殺陣 雄呂血』を観る。
昨年の溝口シンポのゲストだった、田中徳三監督の映画だったこともあり、録画しておいたもの。
阪妻の『雄呂血』のリメイクということだが、元のは観ていない。
主家を守るため、家老の息子らが犯した殺人の身代わりとなって逃亡生活を送るが、結果的に裏切られ、浪人の身となって追手と対峙する若い藩士に、雷蔵が扮する。その許嫁が八千草薫。逃亡生活の中で出会う旅籠屋の娘に藤村志保
雷蔵の、絶望の果てのニヒルな浪人姿は、すでに確立されていた眠狂四郎のイメージのままでもある。(実は、そのシリーズは一本もまともに観ていないのだが。)
ラストの1対百人以上の大立回りの凄さも、今さら言うまでもない。
それよりもむしろ、雷蔵の追手たちに犯され、舌を噛み切って死んだ藤村志保を抱きしめ、追われる身ゆえ、救うことができなかった雷蔵の目から初めて流される涙や、攫われて女郎にまで身を落とした八千草薫が、女郎宿で雷蔵と再会した場面の、雷蔵を見上げつつ階段を上がってくる時のその瞳の美しさの方を、田中徳三監督の美学として記憶に留めるべきだろう。
市川雷蔵については、学生の頃は、台詞廻しが妙に重々しく感じてそれほど好きではなかったものだが、歌舞伎を観るようになると、逆に、その重々しい台詞廻しが実に心地良い響きとなって、うっとりとさせられる。
ラストで、内藤武敏を斬った後の雷蔵の鬼気迫る表情は、まさに荒事役者。倒れていく内藤武敏の後ろで虚空を見上げる横顔は、隈取りはしていないものの、鳴神上人か曽我五郎、鎌倉権五郎のように見えた。
八千草薫藤村志保という女優陣も、学生の頃の印象とは随分違う。藤村志保などは、昔は地味で古風な顔立ちだなあと思っていたのだが、今日の映画では、一番現代風な雰囲気を感じたのであった。(まあ、それだけオヤジになってしまったということかもしれないが。)
音楽が伊福部昭。お馴染みの荘重な旋律、雷蔵が出ていなかったら、東宝映画と間違えただろう。
それにしても、こういうしっかりとした映画の後では、今の日本映画を全く観る気にならなくなるので、困ってしまう。

大殺陣 雄呂血 [DVD]

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