『ノスタルジア』

kenboutei2006-12-29

録画していたタルコフスキーの『ノスタルジア』を観る。
話の展開はよくわからないが、その映像美だけで観る者を惹き付けてやまない。すでに20年以上前の作品となっているにもかかわらず、その感性は古びていない。
長廻しによるショットが時間の跳躍にも結びつき、騙し絵を観ているような、倒錯感を終始覚えた。
冒頭、教会へ行く女性を残し、車の横で待つ男の場面、左から右へ漂う霧。濃くなったり薄くなったり、早くなったりゆっくり流れたりと、タルコフスキーは自然さえ自由に演出しているかのようであった。
最後の、枯れた温泉の中での蠟燭の儀式も、あれだけの長廻しを撮りきる力量に畏れ入る。
国境の話や、焼身自殺する老人などに、当時の政治的背景を思い起こさせるものがあるが、ソビエト崩壊後もこの映画が陳腐化しないのは、ひとえにタルコフスキーの映像美ゆえだと思う。
どの場面も美しく見蕩れてしまい、寝ちゃうんじゃないかという観る前の心配は、全く杞憂であった。