ちあきなおみ

kenboutei2006-06-16

昨年末見逃した、NHKBSの「歌伝説・ちあきなおみの世界」が再放送されたので、録画して観る。
喝采」をはじめ、懐かしい歌、初めて聴く歌、忘れていて突然思い出した曲、思わず聴き惚れた歌、存分に楽しめた。HDD録画で一回、DVD-Rへのムーブで一回、一気に二度も観てしまった。
中でも良かったのは、「矢切りの渡し」を歌う平成元年時の映像。
(女)「連れて、逃げてよ・・・」
(男)「ついて おいでよ・・・」
冒頭の女と男のやりとりを、ちあきなおみは、しっかりと女役・男役で演じ分ける。
その、女の「連れて、逃げてよ」から男に変わった時の姿が素晴らしい。
逃げてとすがる女から、すくっと姿勢を正し、肩をやや落とし、低い声で、「ついて おいでよ」。
この時、少し口をゆがめて、男の声色を使う。
それを観た瞬間、自分は咄嗟に、「吉右衛門だ」と思ってしまった。
他の曲を歌う時にも垣間見えるのだが、ちあきなおみは、非常に役者っぷりが良い。番組では村松友視が「芝居の気配」と表現していたが、まあ同じことだ。そして、自分にはその芝居の気配、というか役者ぶりが、吉右衛門のように感じるのだ。例えば、石原裕次郎の「粋な別れ」を歌っていて、ふとカメラ目線になる時の表情なんかにも、吉右衛門の雰囲気がある。
そう、ちあきなおみは、「女吉右衛門」なのだ。
もう一つ印象に残ったのは、「夜へ急ぐ人」。昭和52年の紅白歌合戦の映像でイントロが始まった途端、「ああ、これは『おいで』の曲だ!」と、思い出したのだった。
「おいで、おいで」と、ちあきなおみが屈んで手を差し伸べる姿は、当時怖かったという記憶がある。ちょっとしたトラウマにもなっていた。すっかり忘れていたが、一瞬にして、その時の気分まで甦ってしまった。改めて観ると、非常に面白い曲で大好きになったが。
それから、ちあきなおみ自身とは少し離れるが、番組の中で彼女が歌っていた、「帰れないんだよ」という曲の、歌詞が面白かった。

そりゃ死ぬほど恋しくて
とんで行きたい俺だけど
秋田へ帰る汽車賃が
あれば一月生きられる

だからよ だからよ
帰れないんだよ

帰省しない理由としては、ものすごく現実的でわかりやすい。昭和44年の三舟英夫の歌で、星野哲郎作詞。
他にも、素晴らしい歌が沢山あり、すっかり「ちあきなおみの世界」に嵌ってしまったが(「紅い花」などは、カラオケで歌ってみたい)、やはり、「喝采」は別格だ。
ハスキーだが、真っ直ぐ響く声は、木管楽器の音色のように、純粋で温かく、そして深い。大声量で熱唱・絶叫する凡庸な歌手とは次元が違う。
平成4年以来、歌手活動含め芸能活動は休業中とのことだが(知らなかった)、是非復活してほしいものだ。NHKよ、何とかしてくれ。(こんないい番組を作った以上、その責任があるぞ。)
 

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