『女系家族』

kenboutei2009-03-21

三連休の中日、神保町シアターで、一気に三本。
一本目は、山崎豊子原作、三隅研次監督の『女系家族』。
大阪の老舗の店の主人が死に、残された三人の姉妹で争う、遺産相続ドラマ。出戻りで総領娘を自任する長女、店を継ぐために養子を取るが、戻って来た姉を邪魔に思う次女、まだ学生なので遺産分けを深刻に考えず、スポーツの勝負のように楽しんでいる三女。更に、店の財産を着服してきたことがバレないよう、相続手続きを自らの思惑通りに運ぼうと画策する大番頭、三女を養女にし、遺産を自分のものにしようとする叔母、そして、死んだ主人のお妾さんと、実にわかりやすく典型的なキャラクターが、期待通りに動いてくれる、コテコテの劇画。谷崎潤一郎の絢爛豪華な世界も、一皮剥けば、骨肉のドロドロ人間模様なのだという、山崎豊子版『細雪』なのであった。
長女に京マチ子、次女鳳八千代、三女は高田美和、番頭が中村鴈治郎、叔母浪花千栄子、お妾に若尾文子と、当時の大映におけるベスト・キャスティング。
どのキャラも面白いのだが、実質的な主役と言ってもよい鴈治郎がやはり一番の見ものであろう。番頭として本宅に忠実な顔をしていながら、裏では山林を勝手に伐採して収益をくすねたり、家宝の雪舟の絵をこっそり盗んだり。都合が悪くなると、耳が聞こえないふりをし、妻を亡くしてから女はさっぱりと言ってるそばで、北林谷栄と関係を持っていたり、全く「食えない」人物なのである。雪舟の絵をめぐる浪花千栄子との応酬は、まさにタヌキとキツネの化かし合いのようで、名優同士の贅沢な対決を楽しませてもらった。
若尾文子の妾もまた良い。死んだ主人の子を身籠っていることを隠し、それがバレても、遺産には興味がないような素振りを見せ続け、最後の最後で、鮮やかに本宅への復讐を果たす。溝口の『赤線地帯』を思い出させるしたたかさ。
高田美和は、ふくよかな顔が魅力。目の下のふくらみ、頬のふくらみ、唇のふくらみ。健康的な若々しさが、そのふくらみに溢れていた。
京マチ子と関係する踊りの若師匠に田宮二郎。女をモノにする時の動きが素早い。
葬儀の時、喪主の三姉妹が白い喪服を来ていたのが、珍しくて興味深かった。
宮川一夫のカメラは、鮮やかなカラー・シネスコの中でも、黒のコントラストを効かせている。風呂上がりの鴈治郎が、汗まみれでビールを飲み干す時の、肌の陰影などは、見事なものであった。

女系家族 [DVD]

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他の二本は、後日。